かつて鳴子温泉の旅人に親しまれた鳴子漆器。
しかし現代では、観光客の減少や生活スタイルの変化により、手に取られる機会が少なくなりつつあります。
高価・古風・手入れが大変――そんな固定観念に縛られた漆器のイメージを乗り越え、
「使われなくなった伝統」を、「次の時代に求められる価値」へと変えていく。
本プログラムでは、
▶︎ 伝統をどう現代のライフスタイルとつなげるか
▶︎ 若年層や外国人旅行者に響く新しい体験や提案とは何か
▶︎ 地域産業として持続可能な仕組みをどうつくるか
という3つの問いを軸に、
「鳴子漆器を未来に届ける仕組みとブランド」を地域とともに構想・実践することを課題として設定。
はじまりは、鳴子漆器工芸会・佐藤建夫さんのもとを訪ねるところから。
「この漆器、昔は旅人の手土産だったんだよ」
蒔絵体験で手を動かしながら、漆の魅力とその繊細さを体感。
全盛期には50人以上いた職人は今、わずか数名に。
この現実に直面し、そこから“再生”の物語が動き出しました。
「漆器はかぶれるから売りづらい」
「食洗機で洗えないと使ってもらえない」
ヒアリングで見えてくる“売れない理由”の数々。
でも、だからこそ考える。「鳴子だからできること」って?
他の地域の事例にも学びながら、鳴子の価値を再構築するアイデアを練り上げました。
集まったのは5つのユニークなアイデアを鳴子漆器工芸会の皆さんへプレゼン。評価を頂きました。
チームの垣根を越え、職人や地元の方とも意見を交わしながら、
「自分の中にある想い」が、少しずつ“かたち”になっていきます。
《生まれたアイデア》
・幻の技法“龍文塗り”を体験できるサービス
・漆を纏うアクセサリー「PIRIKA」
・地元のお祭りと連動したプロモーション企画
・古漆器のアップサイクル「NARUKO VINTAGE」
・酒器レンタルサービス「かしだしマス」
「つくってみて、はじめてわかること」がある。
試作品づくりに挑戦したことで、企画の“本当の課題”が明らかに。
素材、コスト、技術、時間……現実と向き合いながら、
すべての企画を統一ブランド「IBUKI」として磨き上げていきました。
ここからは“伝える力”が問われるフェーズ。
5つの企画を「IBUKIプロジェクト」として1つの世界観に統合。
コピー、ビジュアル、プレゼン資料……細部まで仕上げ、
いよいよ、最終プレゼンへ。
舞台は大崎市長をはじめとする地域のキーパーソンたちの前。
生徒一人ひとりが、鳴子漆器の未来を語り、想いをぶつけました。
提案はどれも「今すぐ実現可能なレベル」まで昇華され、
中には大崎市の実際の事業としての採用検討が始まった企画も。
このプレゼンはゴールではなく、「共創のはじまり」。
現在も、それぞれのプロジェクトが動き続けています。
・「使う」から「纏う」へ——器としての漆器から、日常に身につけるアクセサリーへ。
・抗菌性や修復可能なサステナブル素材としての漆の特性に着目。
・鳴子こけし・岩出山竹細工とのコラボによる地域工芸の融合。
・アイヌ語を由来にしたブランド名「PIRIKA(美しい)」で、境界を超えた交流と審美性を表現。
・鳴子独自の伝統技法「龍文塗り」を活かした体験型コンテンツ。
・団扇やスプーンを用いた体験は、観光・教育旅行に最適。
・漆を使わず“かぶれ”のリスクが少ないカシュー塗料を使用。
・サステナブル素材やSDGs的循環型社会も意識した設計。
・鳴子漆器を日本酒イベントでレンタル利用するサービス。
・高価な漆器を「購入」ではなく「貸し出し」で体験。
・デザイン性と特別感でイベント価値を向上。
・企業ノベルティや記念品としてのカスタマイズ展開も想定。
・家庭や旅館に眠る古い漆器を回収・再加工して商品化。
・「漆器にはヴィンテージがない」という常識を覆す新しい価値づけ。
・アートピースや小物入れなどに再構成し、国内外へ発信。
・ストーリー・希少性を武器に、インバウンドや高感度層へアプローチ。
鳴子漆器 IBUKIプロジェクトは、かつて温泉文化とともに栄えた鳴子漆器の伝統に、新たな光を当てる試みでした。
最盛期には50名を超える職人がいた産地も、今ではわずか数名。地域の担い手減少や観光産業の縮小という現実と向き合いながら、私たちは「失われつつある価値を、次の世代にどう引き継ぐか」を問い続けてきました。
プログラムでは、地域の職人・事業者・住民の声に耳を傾けながら、現場に根ざしたリサーチを重ね、これからの時代に合った新しい鳴子漆器の可能性を模索しました。そこから生まれたのは、「纏う漆器(PIRIKA)」「体験する漆器(鳴子の龍流し)」「酒器レンタル(かしだしマス)」「アップサイクル(Naruko Vintage)」という、伝統に軸を置きながらも現代の暮らしや価値観に寄り添った4つのプロジェクトです。
これらは単なるアイデアに留まらず、試作・改善・発表を経て、すでに地域事業者との連携や販路開拓、インバウンドへの活用など、実装に向けた動きも始まっています。
このプロジェクトの意義は、単に伝統工芸を守ることではありません。
地域の資源や歴史を「自分ごと」として捉え、課題を希望に変えていく力を、一人ひとりが育んだこと。
そして、鳴子という土地と関わりながら、「地域の未来をデザインする視点」を持つ若者が生まれたこと。
IBUKIプロジェクトは、鳴子漆器の再起動とともに、地域と人の関係性に新しい風を吹き込む挑戦でもありました。
ここで生まれた小さな“息吹”が、未来の大きなうねりとなることを、私たちは信じています。